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知的財産から見る「再生医療技術とオープン・ソース」

再生医療の研究開発に国際標準の考えを導入するべき
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/20080903.html

以下は医学的な観点よりも知的財産的な観点の話。

前半では、荒井寿光・東京中小企業投資育成代表取締役社長が「再生医療技術に関しては,エレクトロニクス産業のような“国際標準”の仕組みで実用化するべきである」ことを説明している。
ここでいう「国際標準」は、ISOなどの定める規格的なものも、デファクトスタンダード(*1)も指しているのだろう。
(*1)デファクトスタンダード: 事実上の標準という意味で、例えばパソコンのWindowsの存在など

あと、再生医療技術について、「再生医療の特徴は,実用化までに医学・薬学・工学といった異分野,企業,医療機関などの異業種による連携が必要な点である」こと、「医薬品の物質特許や“医療方法特許”(*2)など,さまざまな特許が必要になる」ことを説明している。
(*2)医療方法特許: 再生医療,遺伝子診断・治療,細胞治療,医薬品の用法・投与方法などの高度な医療方法の発明に関する特許である(http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/20080903.htmlより)

さらに、世界各国と「競争だけではなく連携することも必要」と述べた上で、パテント・プール(*3)の概念を持ち出し、「日本としてパテント・プールに重要な特許を織り込み,主導権を握るかが国際競争力強化の鍵となる」ことも述べている。
(*3)パテント・プール: 各社が持つ特許を集中管理する「窓口」を用意し、特許を使いたい会社は「窓口」へ特許料を払い、特許使用料の各社への分配も「窓口」で行うというもの。特許使用の交渉や手続きの手間が省ける。例えば、DVDの特許の管理を行うDVD6Cなどがこれに該当する

後半では、ディスカッションの模様の要約が説明されている。
秋元浩・日本製薬工業協会知的財産顧問は、iPS細胞の知財戦略に関し、「米国での特許出願の重要性」を指摘している。
また、小野新次郎・ユアサハラ法律特許事務所弁理士は「再生医療ビジネスに関して『オープン・イノベーションで技術を高めていくことが必要だ』」と述べた。
最後に前述の荒井氏が「再生医療技術はオープン・ソース・ソフトウエアのように,皆で利用しながら,技術を完成させていく発想が必要である」として、議論を締めくくっている。

医療特許も含めさまざまな特許が必要になるという点がポイントの1つであるが、ここで気になるのが、医療方法特許のうち、「治療」にかかわるものである。
世の中には答えが1つとは限らないものがたくさんあり、医療もその1つであろう。
同じ病気でも、臨機応変に治療法を選択する必要があるからだ。
とはいえ、これも医療の治療に限らず、基本だとか定石、デファクトスタンダードにあたるものはいろいろある。
こういったことをある程度決めておくことは、医師の能力のバラツキを抑え、誰でもある程度の治療効果が期待できるなど、よい面はあるだろう。
ただ、医療では特に、杓子定規に標準的方法を当てはめればよいというものではない。
最悪の場合、人の命が奪われることもあるからだ。
例えばインフルエンザについて、たいていの人には効果があるタミフルを投与したところ、異常行動を起こす人が現れ、それが原因でなくなった、なんてことがあった。
重篤な副作用が起こる条件(上の場合は中学生以下への投与)がある程度わかっていればよいが、そうとも限らないのが現状のようだ。
それが、医療のように人の命を扱うことの難しさである。
特許で縛ることをマイナスにせず、プラスに生かすことが求められる。

上で触れた「再生医療技術はオープン・ソース・ソフトウエアのように,皆で利用しながら,技術を完成させていく発想が必要である」
この考え方には、私は基本的に賛成である。
まず、よい治療法などは論文といった形で世に出ることで、論文発表前に特許を出していないのであればオープン・ソース化している(これは理系などの世界でもいえることであるが)。
裏を返すと、「皆で利用しながら」治療法を完成させる、技術を確立させるには、特許をとらない場合はそれを公にする(特許をとらないことで企業秘密を守るようなやり方とは別)、特許を取ったとしても広く、無料(最低でも安価なライセンス料)で特許を使うことが出来るようにすべきである。
そして、よい方法であれば広く使われ、オープン・ソースのコミュニティ的発展を遂げるだろう。

もっとも、上の内容についても、杓子定規に1つの方法を当てはめればよいというものではない点は、ある程度当てはまる。
オープン・ソースの特徴である「自分で使い、よくない点をフィードバックし、改良し、公開する」点は、医療においては試しに使っても逆効果、つまり病気の治療に逆効果になることさえあるのだ(それをきちんとフィードバックすればよいが)。
仮に公開されている方法と同じやり方をするのであれば、医師の技量に左右されることもある。
とにかく、実際にやってみないとわからないこともあるだろうが、命が奪われることだけは避けなくてはいけない。

加えて、オープン・ソースと医療という2つの異なる分野だから起こる、「ソース」の管理の難しさがある。
オープン・ソースでは、結果としてソースが一元管理され、その気になれば誰でもソースコードを手に入れられ、改善もできる。
しかし、医療においてはソースに相当する治療法などの一元管理を誰がどのように担うかなど、きちんと情報を公開できるか、などの問題はある。
この点には注意が必要だろう。

「再生医療技術はオープン・ソース・ソフトウエアのように完成させていくことが必要だ」とはいえ、現実は難しい点があるかもしれない。
それでも、まずやってみることが大切だろう。

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